こんにちは。

ライターのmamiです。

読書の秋にオススメの小説シリーズ第2弾をお届けします〜。

前回の記事:読書の秋! 長い夜には大人の恋愛小説にハマってみませんか?

10月にノーベル文学書を受賞されたカズオ・イシグロさんのことは皆さんも記憶に新しいのではないでしょうか。

一体どんな小説を書いているのか興味がないですか?

ご紹介する「私を離さないで」は日本でもテレビや舞台の原作になりました。

そして、出す作品が次々ヒットする女流作家の三浦しをんさん。

「まほろ駅前多田便利軒」や「舟を編む」が有名ですが、取り上げたいのはもうすぐ映画が公開される「光」。

三浦しをんさんの中では異色の作品だと思います。

まったく違って、どちらも心の琴線に触れてくる……珠玉の2冊を作家の背景と共にご紹介しましょう。

 

『私を離さないで』著:カズオ・イシグロ


わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

記憶を描く作家、カズオ・イシグロ

イシグロ氏は1954年、長崎県生まれ、ご両親ともに日本人だそうです。

5才の時に海洋学者の父がイギリスの研究所に就任する為、一家で移住しました。

青春時代には作家ではなくミュージシャンをめざしていたのだとか。

ケント大学に入学し、文学と哲学の学士号を取って卒業。

この頃から小説を書き始め、1982年、処女作で王立文学協会賞を受賞しました。

1989年には英語圏最高の文学賞とされるブッカ賞を35才の若さで受賞。

その後も、1995年には大英帝国勲章(オフィサー)、1998年にフランス芸術文化勲章を受賞し、2008年には「タイムズ」紙上で、「1945年以降の英文学で最も重要な50人の作家」の1人に選ばれました。

なんかすごい……。

想像を超える、まばゆいばかりの経歴です。

が!実はワタシは不勉強のせいであまり知らなくて。

ノーベル文学賞受賞で「この人の作品だったのか」と初めて知ったのが、ずいぶん前に映画で観た「日の名残り」です。

「日の名残り」は英国貴族邸の厳格な老執事が語り手。

映画ではこの老執事役を「羊たちの沈黙」のアンソニー・ホプキンスが演じました。

第二次世界大戦前後の時代、堅物の執事の生き様、胸に秘めたロマンスや、主への思いが淡々と静かに描かれ、若かったワタシは、「大人の映画だなあ」と感じた思い出があります。

イシグロ氏の著作には「主人公が過去を振り返る」という作品が多いのだとか。

あるインタビューでイシグロ氏はこう語っています。

『記憶というのは常に僕の中のテーマであります。過去において自分がどうだったのか、それは思い出すたびに歪められたり変わったりするものですよね。「日の名残り」などはまさにそれを描いています。ある人物が「自分は人生を無駄に生きてきたのではないか」という思いにとらわれ過去を振り返るという話です。」……

これからご紹介する「私を離さないで」でも記憶は1つのテーマになっています。

<「私を離さないで」……運命に挑む若者たち

〘あらすじ(ネタバレはありません)〙


舞台は1990年代のイギリス。

少女時代を振り返る、主人公のキャシー。……

彼女が幼少期を過ごしたのは全寮制学校ヘールシャム。

そこには元気よく学び遊ぶ子供たちがいたが、彼らは外部に出ることが決して許されず、親が会いにくるということもなかった。

なぜならキャシーを含めた全員が、ある目的のために生まれてきた「特別な子ども達」だったから。

ヘールシャムは、「特別な子ども達」が「適齢期」までを過ごすための施設だった。

それでも普通の学校と同じように友情も恋愛もあった。

キャシーはいじめられっ子の少年トミーと心を通わせるが、そこに自己主張の強い親友のルースが割り込み、微妙な三角関係になっていく。

やがて「適齢期」を迎え、彼らは「その時」を待つためのコテージに移ることになった。

避けられない「その時」とは一体なのか⁈

自分たちの過酷すぎる運命を知った3人は、それでも希望を追い求めて……。

〘映画のキャスト(2010公開)〙

キャシー:キャリー・マリガン

トミー:アンドリュー・ガーフィールド

ルース:キーラ・ナイトレイ

〘テレビのキャスト(2016)〙

恭子:綾瀬はるか

友彦:三浦春馬

美和:水川あさみ

〘舞台のキャスト(2014)〙

八尋:多部未華子

もとむ:三浦凉介

鈴:木村文乃

…………………………………………………………

SFがかった近未来的な内容なのですが、舞台が1990年代というのがミソ。

信じられないような内容なのに、絵空事やファンタジーではなく、リアリティを持って迫ってきます。

彼らの背景が分かってくるにつれ、胸がしめつけられます。

ネタバレするので詳しくは書けませんが、どうしようもなく辛い、悲しい話です。

けれど読んでいてイヤだと感じないのは、どんな形であれ、そこには紛れもない青春の日々があり、儚いけれども彼らの夢が描かれているからだと思います。

イシグロさんは、

『(「私を離さないで」は)長くは生きられない若者たちの“生”を描くことが主眼だ』

と、語ったといいます。

重い内容ではありますが、考えさせられる物語がお好きな方にはオススメです。

「イシグロさんは記憶を描く」とお話しましたが、キャシーにとっての「記憶」とは何なのか……答えは皆さんそれぞれ違うのかもしれません。

 

『光』 著:三浦しをん

愛すべきキャラクターを生み出す、三浦しをん

東京生まれの三浦しをんさん。

2000年24才のときに「格闘する者に○」でデビューして以来、次々に作品を発表してきました。

直木賞を受賞した「まほろ駅前多田便利軒」を筆頭に、映画化、ドラマ化された作品が多いことでも有名です。

順風満帆な作家人生を歩んでいるようにみえる三浦さんですが、若かりし日、編集者をめざして挫折した経歴を持っているのだとか。

小説家になってからも、『書こうと思ったものに全然届いていない』と悩んだ時代が意外に長かったといいます。

作品を読んだことがある人にすれば意外ですよね。

バツイチの便利屋と訳ありの居候が探偵さながらに活躍する「まほろ」シリーズ。

箱根駅伝を目指す若者達のドラマ「風が強く吹いている」。

辞書を編む編集者の悲喜こもごも「舟を編む」。

ストーリーの面白さもさることながら、登場人物の多彩さ、その愛すべきキャラクターに惹きつけられます。

ほかにも、文楽に情熱を傾ける若手太夫の奮闘を描く「仏果を得ず」、心中をテーマにした短編集「天国旅行」などなど、聞いただけで面白そうじゃないですか?

1ページ目から世界に引き込む分かりやすく滑らかな筆致に、ワタシなど、

「退屈な時はしをんさん読んどけば間違いない」

と思ってしまうほど。

ただ……

ご紹介する「光」はそういうわけにはいきません。

軽い気持ちで手に取るとヤケドしますから。

『光』……日常に潜む暴力とは

〘あらすじ(ネタバレはありません)〙

市役所に勤める信之は妻と幼い娘と3人で暮らしていた。

一見穏やかな生活は、ある日、故郷美浜島の幼馴染み輔が現れた所から綻びはじめる。……

美浜島での中学時代、信之は同級生の美花と付き合っていた。

輔は父親に虐待されている少年で、信之を兄のように慕っていた。

ある日、静かな島を地震による津波が襲い、信之と美花は家族を失ってしまう。

避難所で過ごした夜、2人は罪を犯し、大きな秘密を共有することとなる。

それから20余年が過ぎ、美花は女優になっていた。

輔は信之と美花の秘密を握っており、脅しに現れたのだった。

再会した美花に相談を持ちかけられた信之は、愛する彼女のため、輔にある交換条件を持ちかける。

一方、信之の妻・南海子は夫の異常性に気づき、罪さえも知ることとなるが……。

〘映画のキャスト(11/25〜公開)〙

信之:井浦新

輔:瑛太

美花:長谷川京子

南海子:橋本マナミ

http://hi-ka-ri.com/
…………………………………………………………

どちらかというと温かいイメージの三浦作品の中では異色の作品です。

“僕たちは、人間のふりをして生きている”

というのが映画のキャッチコピー。

つまりは人間じゃない4人の男女の物語……なんだか恐ろしいでしょう?

どこが光なの? と突っ込みたくなるほど暗闇の続く物語ですが、三浦さんは

「人を悪い方に導く光もある」といいます。

「日常に潜む暴力を書きたかった」と述べている通り、自然の、親の、愛憎の、肉体の、言葉の……様々な形の暴力が描かれた作品。

恐いけれど、どうしようもなく引きずり込まれます。

スリルがあって止まらない。何とも言えない荒廃感があるのです。

そして、暴力って……? と突きつけられます。

映画のキャストもまさに! といった感じで魅力的ですが、ぜひ小説を先に読んで頂きたい作品です。

 

今回は少しヘビーな2冊をご紹介しました。

最後に、面白そうだけど長い小説は億劫で……と思っていらっしゃる方に、三浦しをんさんの言葉をご紹介したいと思います。

「作家の役割はどんなことだと思いますか?」という質問への答えです。

「みんなそれぞれ持っている日常の憂さから、小説を読んでいる間はちょっと離れることができて、自分以外の人生を体験できる、というところでしょうか。(中略)読んだ人自身の現実や世界の捉え方にも、希望や問題意識が芽生えたらいいなと思いますね。」

いかがでしょう。

長い秋の夜、自分以外の波瀾万丈の人生を体験してみませんか?

 

 

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